糖尿病とは、血液中のブドウ糖が細胞にうまく取り込めず血糖値が慢性的に上昇している状態です。
長期にわたり血液中のブドウ糖の過剰な状態が続くと動脈硬化が著しく進行しさまざまな合併症が出現します。
心臓の血管が詰まる心筋梗塞、脳血管が詰まる脳梗塞、腎機能が低下し尿が出なくなる腎不全、眼底の血管の障害による視力低下など深刻な事態もおこります。
糖尿病は現在のところ完治する病気ではありません。
ただ、糖尿病そのものは治せなくても、食事療法、運動療法、薬物療法により血糖値を適正に保つことができれば合併症を起こさずに健康を維持することは十分に可能です。
糖尿病の症状
高血糖の状態が続くと、のどが渇いたり、尿の量や回数が増えたりすることがありますが、治療がうまくいくと、こうした症状はほとんどなくなります。
治療を受けているにもかかわらず、こうした症状が現れた時は、治療が適していないか、何らかの原因で一時的に血糖のコントロールが悪くなっている可能性があります。
多尿、頻尿
尿量が多くなり、昼夜を問わずトイレに行く回数が増えるのは糖尿病でよくみられる症状です。
血糖値が高くなると、腎臓が血液中のブドウ糖を水分(尿)とともに排泄するために起こります。
のどの渇き(多飲)
血糖値が高くなり、腎臓からブドウ糖と水分が尿として排泄されると、体内の水分が不足し、のどの渇きを強く感じるようになります。
口の中に粘りを感じる方もいます。
のどが渇くために水分をたくさんとり(多飲)、その結果、さらにトイレの回数が増えるという悪循環が生じます。
体重減少
糖尿病患者さんは太っているというイメージがあるかもしれませんが、血糖のコントロールが悪いと体重が減ることがあります。
インスリンの働きが悪くなり、食事からとった糖質(炭水化物)をエネルギーとして利用できなくなってくると、脂肪や筋肉のタンパク質を分解してエネルギーとして利用してしまうためです。
これは、体を作っている大切な成分を消費して活動のためのエネルギーを得ている状態なので、とても危険な状態です。
倦怠感
インスリンの働きが悪くなり、食事の糖質(炭水化物)をエネルギーに変換できなくなって、細胞がエネルギー不足になるために、疲れ・だるさを感じると考えられています。
三大合併症
網膜症
血糖値が高いことによって、目の網膜(もうまく:眼球の後ろにある光を感じる部分)に栄養を送っている細い血管の流れが悪くなったり詰まったりすることで、出血が起こったり、血管からしみ出たタンパク質や脂肪が網膜に沈着したりする病気です。
進行すると、失明につながることもあります。
初めのうちは症状がほとんどないため、気づかないうちに進んでいることがあります。
糖尿病と診断された時、そしてその後も、必ず定期的に眼科で検診を受けることが大切です。
腎症
血糖値が高い状態が続くことで、血液中の老廃物を尿として体の外に出す働きを持つ腎臓の細い血管(糸球体)の流れが悪くなり、腎臓の機能が落ちてしまう病気です。
症状を感じることはほとんどなく、初めのうちは尿にタンパクが時々出る程度ですが、そのまま放っておくと常にタンパク尿となり、やがて腎臓がほとんど働かなくなる腎不全となって人工透析が必要となります。
神経障害
血糖値が高い状態が続くことで、さまざまな神経線維に障害が起こる合併症です。
痛みなどを伝える神経が障害されると手足の感覚がにぶくなったり、じんじん・ピリピリしたり、しびれたりします。
痛みが出ることもあります。
臓器の働きを調節している自律神経が障害されると、胃のもたれや下痢、便秘、膀胱の異常(尿が出にくい・尿が残る感じなど)、勃起障害(ED)などが現れます。
糖尿病を疑った場合の検査
空腹時血糖
10時間以上何も食べずに(水は飲んで良い)、測った血糖値です。
血糖値がもっとも低くなるタイミングの値で、診断と治療効果の判定両方に用いられます
随時血糖値
食事の時間と関係なく測定した血糖値です。
正常の場合は140mg/dlこえることはありません。
診断や血糖コントロールの指標に用いられます。
食後2時間血糖値
食事を始めてから2時間後に測った血糖値です。
血糖コントロールの状態、とくに食後高血糖があるかどうかをみるために用いられます。
グリコヘモグロビン(ヘモグロビンA1c, HbA1c)
グリコヘモグロビンとは、血液中の赤血球に含まれるヘモグロビンにブドウ糖が結合したものです。
血糖値が高いほどヘモグロビンと糖はより多く結合します。
そして結合すると約120日間結合したままの状態を保つのが特徴です。
この特徴を利用して血中のグリコヘモグロビンの量からブドウ糖の濃度を予測することで、過去1~2か月間の平均血糖値が調べられます。
外来ではグリコヘモグロビンが重要な治療指針となります。
尿糖検査
尿糖とは尿に排出されるブドウ糖のことで、血糖値が正常の方では尿糖が出ることはありません。
しかし血糖値が160~180mg/dlをこえると、尿糖が排泄されるようになります。
つまり、尿糖検査が陽性であれば、血糖値が高いと考えられます。
血糖コントロール目標
コントロール目標値 注4) | |||
目標 | 血糖正常化を 目指す際の目標 注1) | 合併症予防 のための目標 注2) | 治療強化が 困難な際の目標 注3) |
---|---|---|---|
HbA1c(%) | 6.0未満 | 7.0未満 | 8.0未満 |
治療目標は年齢、罹病期間、臓器障害、低血糖の危険性、サポート体制などを考慮して個別に設定する。
- 注1)適切な食事療法や運動療法だけで達成可能な場合、または薬物療法中でも低血糖などの副作用なく到達可能な場合の目標とする。
- 注2)合併症予防の観点からHbA1cの目標値を7%未満とする。
対応する血糖値としては、空腹時血糖値130mg/dl未満、食後2時間血糖値180mg/dl未満をおおよその目安とする。 - 注3)低血糖などの副作用、その他の理由で治療の強化が難しい場合の目標とする。
- 注4)いずれも成人に対しての目標値であり、また妊娠例は除くものとする。